『イニシエーション・ラブ』 [読書]
これは、ミステリーというよりトリック小説ですな。
描かれている恋愛については、別段めずらしくもない設定だが、
最後の2行でそれまで読んでいた自分の中でのストーリーが
転覆した。
「そう言えば・・・」と思い当たる伏線がいくつも思い出される。
あのとき感じた違和感は間違ってなかったんだーっとため息が出る。
読書って不思議だ。
少々の不合理は「そんなこともあるかな」「だぶん~だから、そうなったんだろう」と無視して読み進めてしまう。
それは私だけではないようで、その証拠に、例えばAmazonでの評価を見ると
多くの人がこの本のトリックにひっかかっている。
そして私ももう一度最初から読み直してもよかったのだけど、
多くのサイトでこの本の解説をしているので
そっちを読んでみた。
映画やテレビと同様、
小説でもネタバレしちゃうので、これから読む方は以下を回避してください。
では、ネタバレ、始めます。
この小説が一人称で書かれていることが、
勝手な思いこみの始まり。
A面B面と分けられたストーリーが同人物の「僕」ではないと、最後の2行を読むまで気づかなかった。
だって「僕」以外の登場人物、つまり静岡にいる「マユ」と東京の「美弥子」が同じなもんだから
一人の「たっくん」だと思い込んでたさ。
さらにA面は大学時代、B面は就職後の設定ながら、
時間軸にすると、B面のほうが先に起こった出来事だなんて・・・!
美弥子が名付けた「イニシエーション・ラブ」、理解できないわけじゃないが、
同意しかねるな。
恋愛は人それぞれの価値観があるし、しかもそれは固定ではなく経験と考え方でさらに変化するものだからだ。
もちろん恋愛に対してずっと変わらないスタンスの人も同じくらいいると思う。
ゆえに、美弥子の「イニシエーション・ラブ」は「たっくん」を口説き落とすための手段にしか
思えない。
しかし、終盤までひとりかわいそうなというか、不憫に思えた「マユ」が実はいちばんの食わせ者というのも面白い。
マユは、二人の対照的な男を同じ呼び名にし、二股をかけ、
堕胎したあとも、もう一人とは体調が悪いと誤魔化して、その後ヴァージンのふりをする。
すべて「僕」の一人称で語られるため、「マユ」に対する印象は常に好意的であるけれど、
実際の彼女はどうだったんだろう。
明らかに遊んでそうな女より、しれっとこういうことができる女のほうを男は無条件に信じやすい。
というか、ハナからそんなことをするとは夢にも思ってない。
というわけで、恋愛部分においてはよくある話。
だけど、構成と巧みな書き方で作者のトリックに見事ずっぽり嵌ってしまった蓮花でした。
最後の二行で転覆―というので、ある小説を思い出しました。
でもその題を書いてしまうと、そのまんまネタバレになってしまうので書けないもどかしさ・・
あまりにも面白そうで、すみません、ネタバレ部分を読んでしまいました。
なるほど。
読んでみたいです。
by Sho (2008-03-13 22:37)
そうでした、ShoさんはネタバレOKの方でしたね(笑)。
でもね、できればこの本はネタバレなしで読んでいただきたかったなあ~。
あ、でもShoさんなら、このトリック見破ってしまわれたかもしれません。
ぜひご一読を。一気に読めます。
ある小説ってなんだろ・・・?
by 蓮花 (2008-03-14 19:01)