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【ラスト、コーション】(色、戒)(Lust Caution) [映画]

「ブロークバック・マウンテン」で号泣させられたアン・リー監督の最新作を
K子ちゃんと観た。

はぁ~・・・、もうお腹いっぱいです・・・。
今回もネタはダダ漏れ&超長文ですんで、覚悟の上でお入りを。






重そうな指輪をつけた有閑マダムたちの麻雀シーンから映画は始まり。
家の主、そしてリーダー格のマダムがジョアン・チェン(パッカード夫人!)演じる
易太太(いーたいたい)。
太太は中国語で「~夫人」「~の奥さん」という意味ね。
麻雀には、ほかの3人よりぐっと若い太太が混じっていて、マイ太太と呼ばれている。
そこへ、易太太の夫が帰宅。
若いマイ太太をちらっと見て、言葉少なく去る。
易の家を出たマイ太太は、カフェに入り、1本の電話をかける。

ここで、話は数年前にさかのぼる。


1937年、日本軍が占拠した上海から香港へ疎開した王佳芝(ワン・チアチー)。 

 こんなおぼこい女子大生でした。

香港大学に入って、同じく上海から来た鄺裕民(クァン・ユイミン)から誘われ
演劇部に身をおく。
愛国劇で主演するようになったチアチーは、ほのかな恋心を抱いていたクァンから
抗日レジスタンスとして、イーを暗殺する計画を聞かされ、
その熱い信念に引き寄せられるように一味に加わる。

イーは日本軍の傀儡政権での暗殺部門担当のトップ。
抗日レジスタンスを捕まえては、拷問し、吐かせ、処刑していた。
愛国精神に燃えるクァンたちから見れば、日本の犬、中国の敵であったのだ。

しかし、所詮学生でど素人のスパイたち。
アジトもどこか学生ノリが抜けきらない。
コミカルさを感じるほど、彼らは幼かった。

それでもクァンのつてでイーに近づくことに成功したチアチーは、
なんとかイーを殺害しようと窺うが、まったく隙ゼロ。

こうなったら、色仕掛けしかない。
 脈ありかも、とチアチーは思う。

易太太が急病で、二人でスーツの仕立てに出かけることになったチアチーとイー。
仕立屋では、自分用のできたてのチャイナ・ドレスを着てみせると、
イーの自分を見る目が微かに、しかし確実に変わるのを感じる。
そのまま、イーが連れて行ったのは、あの「ザ・レパルス・ベイ」。
ペニンシュラホテルより早く開業し、「慕情」の舞台なのはあまりにも有名。
久しぶりに「ヴェランダ」および淺水湾に行きたくなってしまったよー。


グラスにべったりとついたマイ太太の口紅を見て、
イーは薄く微笑む。
洗練された女性なら、口紅を唇の形につけたままにしておくことはない。

食事をし、お酒も入って、送り届けるイーの瞳はもう、チアチーを裸にしているかのよう。
そしてチアチーも誘う。
一歩中に入れば、チアチーの仲間がナイフやピストルを手に待ち受けているその家の前で
隙なしイーは、紳士的に引き返してしまう。

絶対次のお誘いがあるはず、と思ったチアチーは、実はまだヴァージン。
「やり方知ってる?」と仲間の女子学生に聞かれ、返答に困る。
太太の役なんだから、ヴァージンというわけにはいかないので、
練習することになったが、仲間内で経験があるのは、思いを寄せるクァンではなく、
商売女専門のリャンだけ。
このリャンが・・・・ちっちゃい虫みたいな男でねえ・・・・。
それでも仕方なく何回か“練習”して、よし、これでいつ誘われてもオーケイ!と思ったら、
イーは上海に戻ることになる。
さすがに追いかけていくわけにもいかず、チアチーたちは暗殺計画をあきらめる。

それから3年。
上海で化粧を落とし、普通の学生に戻ったチアチーの前にクァンが現れる。
今は本チャンのレジスタンス組織に所属しているクァンは
うつろな瞳のチアチーを、イー暗殺の計画に加わるようくどき、
再びチアチーはマイ太太になることを決意する。


香港からやってきたというマイ太太を自宅に泊める易太太。
イーは、ある日出かけるマイ太太に車を手配し、そのままとあるアパートの一室に
来させる。
そこで待っていたイー。上のポスターのシーンがそれ。
チャンスとばかりにマイ太太が焦らし始めるが・・・。

  すごく乱暴。

多少強引が好きな私でも、目を覆うようなブラック・トニー。
このシーンは中国ではカットされたそうです。

それ以来マイ太太とイーは逢瀬を重ねる。
公開前からいろいろと話題を振りまいていたが、
R18にふさわしい、それはそれは生々しいセックスだった。

マイ太太の正体がイーに知れたら、イーが隙を見せたら、
お互い命はない。
しかし、どこか空虚だったイーが、「おまえだけは信じている」と、
そのときばかりは瞳に生命を宿らせる。
そんなイーに、マイ太太=チアチーとしての
愛情が確実に育っていく。


仕事の終わった日本料理店にマイ太太を呼び出し、こうしている時間が
いちばん幸せそうだったな。
マイ太太が踊りながら歌った「天涯歌女」に、イーは涙を流す。
任務を負った“日本の犬”とレジスタンスの女が共に同じ中国人であり、
根底で同じ血であることを象徴している、切ないシーン。


イーはマイ太太に指輪を贈る。
この直前のシーンが冒頭に繋がる。

赤い箱、うちにあるのと一緒だ!と思ったら、
 やっぱりカルティエですよ。
大きなピンクダイヤモンドを使った指輪の豪勢なこと。
いえ、私のは安い時計が入ってたんです。しかも自腹だし。


単なる指輪ではなく、それがイーの本心の愛だとわかったチアチーは
嬉しさと驚愕と畏怖が入り交じり、言葉も出ない。
それをいとおしそうに見つめるイー。

しかし、最後の最後の瞬間、マイ太太は「逃げて・・・」と一言絞り出す。
一瞬ですべてを悟ったイーは猛然と彼女の前から走り去る。
この間のトニーの演技が最高!!!

 

 

人力車で帰ろうとするマイ太太は、閉鎖された道で心はチアチーに戻り、
これから自分に起こるであろう運命を悟ったように微笑む。
あの日、クァンに誘われた日からたどってきた道。
それはこの閉鎖された通りのようにもう先に進むことはない。

チアチー達全員を捕らえたイーは、処刑を命ずる。
家に帰って、マイ太太が泊まった部屋で呆然としていると、
妻がやってくるが、妻は何も深く探ろうとはしない。 




「ブロークバック・マウンテン」でもそうだったが、
かなりリアルな、目のやり場に困るようなセックスを
ポルノに見せないのはアン・リー監督の手腕だと思う。
R指定になったことで、とかくクローズアップされがちな愛欲シーンではあるけれど、
映画としては強烈かもしれないが、別にこれくらいのことは日常的にみんなしているでしょ?

 

好きになって、セックスという順番は、愛に至る基本的な流れだと思うのだが、
セックスから始まる愛、という逆のパターンもあるわけで、
この映画ではこの後者。

思い出すのは「ラ・マン」。
仏領インドシナで富豪華僑のボンボンと
落ちぶれた一家のフランス人の少女。
最初はセックスだけでお互いの核心に触れない関係だったのに、
いつの間にかお互いの心の奥深くに楔を打つような愛が
育ってしまう。

愛とは何か。
相手を好きになり、いつも一緒にいたいと思うことか。
二人で同じ未来に向けて手に手を取ることか。
相手をすべてのものから遠ざけて、自分だけを見つめて欲しいと願うことか。
とにかく体を合わせることか。

ふわふわとしたラブ・ロマンスというファンタジーや、
ただ死ぬとか別れで泣かそうとするレンアイとは全く異なる「愛」が描かれていて、
全編通してピリピリと緊張感がほどけず、
想像するしかない、この時代の中での、この愛が逆に私にはビシバシと届いてきた。



イーの命を救うという選択はチアチーの愛であるが、
スパイと知らず、体を重ねたばかりか、自宅にまで住まわせていたイーの立場はない。
組織で、ただではすまないだろうと思うが、
何より彼女だけがイーにとっての真実であっただろうに、
こんな形で失っては、一生立ち直れないのではないか。


とにかくチャイナ・ドレスと
再現された上海の街並み、
そして私にはたまらない香港の風景、
どれもが美しく素晴らしい。
やっぱり「花様年華」を思い出してしまった。
あと、化粧ね。
マイ太太を含め、マダムたちの、目尻のみのつけ睫毛のなんと妖しいことか。
アイラインもだけど、この目尻の睫毛の効果は、思う以上。
しかし、ジョアン・チェンだけはこの目尻睫毛をつけてなかったと思う・・・。
それでも、きれいだったな~。

あと、字幕で気づいたが、尖沙咀のことを「チムサーチョイ」とちゃんと表記していて、GJ。
エンドロールでは、本土関係は簡体字、香港関係は繁体字で表記していたのも面白い。
あと、いくつかのサイトで中国映画とされていたけれど、これアメリカ映画なんだよね。
撮影はメキシコ人、音楽はフランス人、出演者は香港人、台湾系アメリカ人、もちろん中国本土の俳優さんが出ているけど。 

チアチーを演じたタン・ウェイが浅田真央ちゃんに見えてねえ。
かなり童顔だよなあ。
2004年ミス・ユニバース北京大会で5位入賞したそうです。

クァンを演じた王力宏。
私は歌手のイメージしかなかったですが、彼もとてもよかったです。
あの中国服にはちょっと萌え。

しかし、なんといっても梁朝偉。
45歳でも、背は低くても、そんなのまったく関係ねー。
あなたは完璧です。

 

 

 

 

 

 


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コメント 8

Sho

>このリャンが・・・・ちっちゃい虫みたいな男でねえ・・・・。
私、二十数時間ぶりに声上げて笑いました。
蓮花さんのレヴューを読みながら、時代背景や状況、人物相関関係が「なるほど~」とわかりました。ありがたいです。

そうそう性愛のシーンもね、別に何かものすごく特別なことしてるってわけじゃないんですよね。
愛情って何なんでしょう。レヴューを読み進めながら、私も考えさせられました。

>背は低くても、そんなのまったく関係ねー。
そうなんですよ!実は私は、大きな男の人が好きなんですね。マッチョは駄目ですが。背が高い人くて、骨格のがっしりした人が好きなんです。
でもトニー・レオンは貧相な感じがしないですね。
これは何度も見たいです。
ぜひ、トラックバックさせてください。
by Sho (2008-02-16 19:46) 

蓮花

リャン、悪い人ではないんですけど、かなり貧相な・・・。
任務のためとはいえ、初体験の相手があれでは・・・ねえ。
あそこでクァンが彼女の思いをくみ取っていれば、イーへの気持ちもそんなに盛り上がらなかったかも知れません。
ここらへんがうまいですね。

Shoさんは大きな男の人好き、ですか。私はあんまりこだわらないですねえ。スリムもマッチョもだめ。腰回りがどしっとした、木こりのような人が好きです。うふ。
そうそう、梁朝偉は貧相な感じがしない。背は低い、肩幅ない、足長くない、なのにあんなに色っぽい。どうしてなんですかねえ???
by 蓮花 (2008-02-16 21:24) 

Sho

もう蓮花さんの例えにいちいち爆笑してます! 木こりさん、昔おとぎ話の中によく登場しましたよね。
そうそう、なんでよりによって彼?これじゃああんまり可愛そう・・と、思いました。リャン君。たしかに、悪い人ではないんだけど。

昔トニー・レオンのことは、実はどっちかっていうと苦手だったんです。
「恋する惑星」「天使の涙」を見まして、レオン・ライにどっぷり嵌りまして。
「花様年華」でやられたかなあ・・ あと、新聞のインタビューの写真もよかったんです。そのときに「真面目な人だなあ、セクシーな人だなあ」と思いました。
極めつけは「インファナル・アフェア」ですね^^
by Sho (2008-02-16 21:59) 

蓮花

木こり、ですよ、やっぱり。腰がこう、強そうな・・・、あ、喧嘩が、です。
そしてそして、Shoさん、あたくしも黎明、だ、だ、大好物です~~~!
心の王子ですわ!
梁朝偉は、いっちばん最初は台湾映画の「非情城市」でした。ご覧になりました?名作ですよ。
候孝賢監督が、梁朝偉が台湾語をしゃべれないから、役の設定を聾唖者に変えてまで使いたかったという。あの写真屋さんの役がすごくよくて。
あと結構間抜けな役とかすけべな役も結構やってるんですよね、実は。
彼の犬のような目が好きです。憎めないんですよね、どんなサイテー男の役でも。
by 蓮花 (2008-02-16 23:03) 

Sho

「非情城市」、知りませんでした。今度見てみます。
確かに憎めないですよね。すごく女の人にもてるでしょうね。
実物見たら、フェロモンがすごいんだろうな。
ちなみにクォン君は、好み好み!です。
中国服、よかったですね~~~^^
by Sho (2008-02-17 07:49) 

蓮花

「非情城市」はレンタルでもあると思います。ぜひご覧ください。
>実物見たら、フェロモンがすごいんだろうな。
うう・・・見てみたい。でも腰砕けになっちゃうと思います。

おっと、しかもワン・リーホン、好みですか。
私、彼はデビューの頃から見てますが、こう、二枚目すぎるところが
私には響かないんですよねえ。アメリカ育ちなのが、関係あるかも知れません。
でも、あと20年くらい歳をとったら、浩市さまのようにすんごく熟すかも・・・。
by 蓮花 (2008-02-17 08:24) 

cafetime

この映画観て、どうも後ひきました。
いろいろ意味シンやなあ、と。

口紅べったりの意味がわかりました。
いっぱい映画観てるのですね。
by cafetime (2008-03-05 15:07) 

蓮花

cafetimeさん、初めまして!
後引きますねえ、確かに。
口紅はカフェの場面でもそうでしたが、まだ未熟な女性という演出になっていたと思います。
付け焼き刃の大人の女性という・・・。

映画は大好きなのですが、なかなか劇場で観られないので、
選んで選んで時間を作ってます♪
by 蓮花 (2008-03-06 07:05) 

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